仕事とゲームの共通点、あるいはコーポレートビジョンとは
まえがき
【前編】大先輩のフリークアウトCTOが語ってくれた、マネジメントの深くてイイ話 / 飲み会で探るエンジニアのホンネ #naoya_sushi 編
【後編】大先輩のフリークアウトCTOが語ってくれた、マネジメントの深くてイイ話 / 飲み会で探るエンジニアのホンネ #naoya_sushi 編
この記事を読んで色々得られるもの、考えさせられることがあったので、つらつらと書いてみる。
エンジニアが頑張れば売上が上がる仕組み
『グーグル』がエンジニア天国みたいな環境を築いて、すごくハッピーだねって言われてますけど、あれはエンジニアにとってハッピーな会社をつくったから成功したんじゃなくって、エンジニアが頑張って検索のスピードを速くすることで会社が儲かって利益も生み出せるっていう構造をつくったから、必然的にエンジニアの生産性を上げるために、彼らがハッピーになる会社になったって思ってるんです。
これは今まで考えたことがなくて、新しい発見だったし、なるほど感がすごかった。
エンジニアってモチベーションと生産性が他の職種よりも顕著にリンクしていて、ムラの多いいきものだと感じてる。だから、エンジニアのモチベーションを上げることが会社が成功する大きなキーの一つになるわけで、それを実現する要因として技術的に面白いかどうか、というところが大きい。特に出来るエンジニアほど技術的なところとモチベーションが連動している気がする。
で、検索のスピードや、広告表示のスピードを上げるというのは技術的に面白いチャレンジだし、それが会社の売上に直結するアドテク業界が盛り上がっているのも納得できる。
エンジニアの目標達成に対するモチベーションは高い
この記事の話ではないが、CODE COMPLETEにエンジニアは目標を提示されるとそれを達成するように動く、という当たり前だが重要な話が書いてあったことを思い出す。これは「複数のエンジニアチームに同じプログラムを書く課題を出し、ただ評価軸としてそれぞれ別の軸を伝える。そうするとそれぞれ与えられた評価軸では他のチームより優秀な結果を残した。」というもの*1。エンジニアの目標達成に対するモチベーションは高い。その目標が技術的に面白ければなおさらモチベーションは高くなるだろう。
ゲームの話
突然だが、やればやるほど自分の技術・知識レベルが上がってスコアが上がるゲームは面白い。自分はタイピングゲーム, beatmania IIDX, super hexagon, etc...今までいろんなそういうゲームをやってきた。
また、ゲームをやっているユーザは与えられた条件の中で最善を尽くさずにはいられない、という話がある *2。
仕事とゲームの共通点
仕事もゲームもやるのは人なわけで、その人を突き動かすものとして共通なところは大きい。つまり、仕事も「やればやるほど自分の技術・知識レベルが上がってスコアが上がるゲーム」として捉えられるんじゃないかと思う。「自分の技術・知識」が自分の業務ドメインの技術・知識であり、「スコア」がKPIだ。乱暴な見方をすればGoogleの検索チームからしたら検索速度を上げるゲームが仕事だと言える。そういう視点で見ると、そこのエンジニアのモチベーションが高く、つまりはパフォーマンスも高くなることは当然のように思える。
仕事とゲームの共通しない点
ゲームユーザは「与えられた条件の中で最善を尽くさずにはいられない」と書いたが、現実においては条件というのはほとんど存在しない。もちろん法律や社内規則などはあるが、社員に共通する条件というのはそれくらいしかない。
対談の記事に
僕は一番ビックリした話が、KPIってあるじゃないですか。あれを決めると、時としてモラルハザードが起こるんですよ。
というなおやさんの発言があるが、人を動かす根源が仕事もゲームも同じなら、ゲームと同じく与えられた条件の中で最善を尽くさずにはいられず、モラルハザードが発生するのはむしろ当然なことのように思えてくる。
つまり、現実世界でも「与えられた条件」を明示的に設けないと、モラルハザードが発生する。そしてこのエントリで語られているものがコーポレートビジョンと別のKPIである。
「モラルハザード」を定量的に定義することは難しい。つまり、モラルハザードを防ぐ別KPIを設定するにはケースバイケースに適切に設定する必要がある。しかし、設定したKPIの値を落とさずに「モラルハザード」が起きてしまう抜け道がないことは保証できない。
コーポレートビジョンは違う。もっと抽象的なもので社員の思考の根底にあるものだ。抽象的であるがゆえに、社員に浸透させるのが難しいし、抽象的であるがゆえに浸透すればその会社にとっての「モラルハザード」の認識が根本から共有され、社員は無意識にそれを起こさないよう仕事をするようになる。
会社の文化
コーポレートビジョンを浸透させる、という表現を使ったが、それは会社の文化を浸透させる、あるいは作ることにほかならない。重要なのはいかに会社の文化、つまり社員が持つべき共通認識を持たせるかということだ。
今まではモラルハザードを防ぐという文脈で書いてきたが、コーポレートビジョン、ないしは会社の文化というは浸透していれば悪いことを発生させないということ以外にも効果がある。その会社らしいプロダクトを作る土壌になったり、一種の権限委譲にもなる。権限委譲については会社の文化が浸透していれば、社員が意思決定に迫られた時に、上司に聞かずともこの会社の文化としてこうするべきだ、という判断が可能になるということだ。
そもそも会社の規模が小さければコーポレートビジョンはいらないだろう。数人しかいなければそんなものなくても会社の文化、共通の認識というのは持っているだろうし、そういう価値観が近い人しか採用しないだろう。コーポレートビジョンが重要になってくるのは会社の規模が大きくなった時だ。起業した初期メンバーが持っていた共通認識をいかに社員全体に浸透させるか。ここが一番難しく、かつ成功すれば効果は絶大だと思う。
正直ここに書いているコーポレートビジョンと会社の文化の話は、理想論に近いかもしれないと思う。実際にこうやって成功した、と言う話はなかなか聞かないし、そもそも抽象的すぎてそれを人に伝えるのは難しい。
そんな中成功した1つの実例としては、やっぱりGoogleがあるんじゃないかと思う。How Google Worksの中で、広告に修正を加えるための会議で、一人の社員が拳でテーブルを叩きながら「こんなことはやるべきじゃない。邪悪になるぞ」と言って、修正が見送られたという逸話が紹介されている*3。まさにコーポレートビジョンが、文化が共有されていなければ起こらなかった現象だと思う。
最近そういう取り組みをしているところとしてグリーがある。
従業員に、グリーという会社のアイデンティティを明確にメッセージしてこなかったこともあり、グリーらしさとは何かを意識してメッセージを出しています。従業員それぞれが思っているところはあると思いますが、それがそろっていないことに少しもったいなさを感じているのも事実です。グリーは本来、モノ作りの会社です。それを、プライドを持って言えるようになれば楽しいし強いと思います。
これがどうなるか興味深いと思ってる。もちろん他でやってるだろうけど知らないだけというのもあると思う。
こういう文化を浸透させたら成功する、というのを自分で実証したいところだが、人の上に立つ予定がないので誰か実際にやって成功したという話を聞かせて欲しい*4。